作品の取り扱いとお手入れ
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作品のモデルについて --- 微化石とは
顕微鏡を使わないと観察できないサイズの微小な化石を微化石といいます。微生物の化石とは限らず、大型生物の一部の場合もあります(例:花粉)。もちろん微生物も多く、硬い殻や骨格を作る微生物の硬い部分が化石になって残りやすいので、顕微鏡で調べれば割とよく見つかります。一般に小さい生物ほど進化(変異)が速いため、ひとつの種類が出現してから絶滅するまでの期間が比較的短く、化石の入っている地層の時代を詳しく知ることができます。このように時代を示す化石を「示準化石」といい、微化石はだいたい精度の良い示準化石でもあります。代表的な微生物の化石は放散虫・有孔虫・珪藻・円石藻、大型生物由来の微化石は主に花粉・海綿の破片・コノドントです。コノドントとは、ヤツメウナギに似た生物の歯です。ここでは微生物の化石についてご紹介します。
放散虫
放散虫は単細胞の海洋プランクトンの一群で、生体部はアメーバと似ていますが、硬い殻(正確には骨格)を作ります。殻の材質は種類によってガラス質と硫酸ストロンチウムがありますが、硫酸ストロンチウムは海水に溶けやすいため、化石として見つかるのはガラス質の種類です。殻の大きさは平均0.2mmくらいで、基本的に回転対称な形をしており、球・円盤・円錐・紡錘形などに穴やトゲや凸凹模様がついたものが多いです。
放散虫は古生代に出現し、大絶滅を何度も乗り越えて、現在も海に漂っています。歴史が長い上に、同時代にも様々な種類のものがいることから、現生種と化石種を合わせて1万種を超える放散虫が知られています。示準化石としてとても重要な生物です。
生きている時の殻は本当にガラスであるため透明で、そこから細い仮足をたくさん出しています。殻が化石になるとだんだん結晶化するため白濁してきます。深海では水圧のせいで石灰質のものは溶けてしまうため、深海の堆積物は放散虫や海綿の破片などガラス質の化石だけでできている場合があります。これが固まるとチャートという硬い岩石になると考えられています。
放散虫の殻は回転対称形が基本であるため、渦巻き型よりも形の制約が少なく、驚くほど多様な形状をしています。そのさまざまな形をクロッシェレースでデザインして製作しています。本物の放散虫の大きさをざっくり0.2mmとすると、チャームの大きさがだいたい4cmですので、200倍くらいの拡大モデルということになります。白レース糸の光沢は、放散虫化石の少し透明感のある白によく似ています。濡らすと透明感が増してもっと似た感じになりますので、洗濯をおすすめします。
放散虫の名前について
放散虫は種類が多すぎてほぼ学名しかついていないため、作品のラベルの名前は学名(属)です。学名は斜字体で書く決まりがあるので、ラベルも斜字体で作成しています。学名は正しくは属名・種小名の2名法(姓名のようなもの)となっていますが、作品では属までしか再現できないものが多いため、属のみ記載しております。なお、学名とは本来、その種類の特徴や産地や発見者などを意味するラテン語でつけるのですが、放散虫は本当に種類が多すぎて学名のネタ切れとなったため、アルファベットをランダムに並べてラテン語風にして学名をつけた属もあります。作品の中では Thanarla がそうです。
有孔虫
放散虫と同様に水中にいる単細胞生物の一群ですが、貝殻と同じ石灰質の殻を作ります。プランクトン(浮遊性)とベントス(底生)のものがいます。主に海にいますが、湖などの淡水にいる種類も少しあります。球形や紡錘形の殻を少しずつ大きくしながら螺旋状に連ねていって成長するので、巻き貝に似た形になるものが多いです。大きさは普通は1mm以下で、放散虫より一回り大きい感じです。
こちらも古生代から現在まで歴史の長い生物群で、ぱっと見には形のバリエーションが少なめながら現生種と化石種を合わせて4万種以上が知られており、示準化石としてとても重要です。化石ではフズリナや貨幣石が有名で、これらは1cmから最大10cmにもなる大型種です。有孔虫はサンゴなどと一緒に石灰岩を形成するため、石灰岩の石材などにも時々みられます。フズリナなら1cm前後の「巻き貝にしては細かい渦巻き」のように見えることが多いので、石灰岩の壁などがあったら探してみましょう。
現在いる有孔虫の一部には日本語名がついています。よく知られたものに「星砂」があります。星砂は平たい渦巻き型の殻の外側にさらにトゲのある殻を持つため、螺旋状の構造がわかりにくく星形に見えます。沖縄の海で付着生活をしていて、その殻が大量に打ち上げられて星砂の浜ができます。
2025年から星砂のあみぐるみキーホルダーを製作しています。細めのトゲや、本体の透明な粒々をビーズで表現するなど工夫しています。
珪藻
単細胞の藻類で、ガラス質の殻を作ります。海水や淡水中の石や植物などにくっつく付着性の種類が多いのですが、浮遊性の種類もいます。浮遊性の珪藻は植物プランクトンの一種と言えます。大きさは平均0.05mmほどで、放散虫より一回り小さい感じです。殻は基本的に同じ形の蓋と底が組み合わさった箱形で厚さはさまざま、平面形は回転対称または左右対称で、小さな穴がたくさん空いています(いろいろと例外もあります)。単独で暮らすものと群体を作るものがあり、大きな群体になると、肉眼で藻のように見えることがあります。
珪藻の一番古い化石は中生代白亜紀の地層から見つかっており、放散虫や有孔虫ほどは古くありません。しかし様々な環境の水域に生息するため、環境を示す「示相化石」としても役立ちます。まだ分類が確定していなくて学名が変更されることも多く、現生種と化石種を合わせて2万種とも10万種とも言われています。
珪藻の殻が積もって固まったものが珪藻土です。穴の空いた立体的な殻が積もっているため細かい隙間が多く、ガラス質なので燃えにくいという特徴があります。隙間が多いことから吸水性や断熱性、ガラス質であることから耐火性や絶縁性があり、さらに軽いので、昔から七輪や建材などに広く利用されてきました。最近では清潔なバスマットとしてもよく使われます。
そのへんの川や池にも普通にいて身近なせいか、現在生きている珪藻には日本語名のついている種類が多いです。円盤型のクモノスケイソウ、カザグルマケイソウ、左右対称のクチビルケイソウ、フナガタケイソウ、連なった群体を作るクシダンゴケイソウなどがあります。
2027年頃を目安に作品化を予定しています。
円石藻
単細胞の藻類で、海にいる植物プランクトンであり、石灰質の小さな円石(円盤型の石)をたくさん作って表面を覆っています。大きさは平均0.01mmほどで、放散虫より1桁小さい感じです。殻というより盾のような小さい円石をたくさん作る理由はまだよくわかっていないようです。
円石藻の一番古い化石は中生代三畳紀の地層から見つかっています。円石1個だけでも種類がわかるため、示準化石としてとても重要です。しかし分類はまだ研究途上で、何種類くらいあるのかよくわかっていません。複数の分類系統にまたがるという説もあります。
チョーク(黒板に字を書く白墨)は本来、円石の塊でできた石灰岩です。イギリスのドーバー海峡沿いの海岸に白い石灰岩の崖が続く名所がありますが、この石灰岩はほとんど円石藻の化石からできています。これが「白亜」の元祖で、白亜紀の名前の由来になっています。
作品化の予定は当面ありません。
おまけ:このページに出てくる言葉の読み方
放散虫:ほうさんちゅう (「虫」はゾウリムシのムシと同じく小さい生き物の意味)
有孔虫:ゆうこうちゅう
珪藻:けいそう
円石藻:えんせきそう
示準化石:しじゅんかせき (「準」は地層の中での水準で、時間的には前後関係を意味し、それを示す化石)
示相化石:しそうかせき (「相」は「人相」「生物相」などと同じく特徴や環境を意味し、それを示す化石)
仮足:かそく (アメーバなどの単細胞生物が長く伸ばして足や触手のように使う部分)
学名について
生物の分類の最小単位が種(しゅ)で、よく似た種をまとめたものが属(ぞく)です。属をさらに大きくまとめたものが科(キク科、ネコ科など)で、このあたりまでが一般に馴染みのある分類でしょう。生物には必ず学名をつけることになっており、特に化石ではキクとかネコとかいう一般的な名前がないので、まず学名をつけます。ただし研究が進むにつれて分類は改訂されていくもので、ひとつの種や属がいくつかに分けられたり、複数の種や属がひとつにまとめられたりすることがあり、わりと流動的です。
生物の学名は2名法といって、属と種の2つを組み合わせて命名します(種のほうはなぜか種名ではなく種小名といいます)。人間の姓と名のようなものと思えばだいたい合っていますが、属名はかぶってはいけないという決まりがあり、人間で言えば同じ姓の人は必ず親戚ということになります。学名は斜字体で表記するというお約束があり(ただしネット上では環境により斜字体が無効の場合があるので普通字体のことも)、属名は最初を大文字にして、種小名はぜんぶ小文字というお約束もあります。これを知っていれば、レース編み放散虫についている名前が属名であることがすぐわかります。
学名とは本来、その種類の特徴や産地や発見者などを意味するラテン語でつけます(ただし命名者が自分の名前をつけてはいけない)。たとえば鳥のトキの学名は Nipponia nippon で、日本の鳥であることがすごく強調されています。よくある学名のパターンとしては、種名を産地名や地層名とするときは最後に -ensis または -ense (属名の形式によって変わる)をつけるので、たとえば福井県で見つかった恐竜の学名 Fukuisaurus tetoriensis は「手取層(地層名)で見つかった、福井のトカゲ」という意味です。発見者や功績のあった人の名前をつけるときは、最後に -i または -ae (その人の性別による)をつけます。フタバスズキリュウの学名 Futabasaurus suzukii なら、「鈴木さん(男性)が発見した、双葉(地名)のトカゲ」という意味です。属名や種小名の最初に時々ある Pseudo- は「-に似ている」という意味なので、日本語で言えば「-モドキ」といったところです。同じく最初にある Paleo- 、Archaeo- はいずれも「古い」、Neo- は「新しい」という意味です。始祖鳥の属名 Archaeopteryx は「古代の鳥」といった意味です。
学名の読み方は、ラテン語がもともと古代ローマの言語ですので、ローマ字読みでおおよそ合っています。ただ、地名や人名の場合はラテン語とぜんぜん違う言語であることが多いため、ラテン語として読むのが不可能な場合がよくあります。学名は声に出して読むことを想定していない、という考え方もありますので、学術的な議論でない限り、適当でいいでしょう。